メロン生産者として第一線を張る以上、その栽培技術は日々磨き続けなければなりません。
良いメロン生産者を目指すとはどういう事なのでしょうか。
私は「地域(庄内砂丘)らしさをメロンで表現する事」と考えます。
農作物は、土地や品種はもちろん生産者の技術や体調までもが、食味や見た目にあらわれます。
土地と歴史を理解し、最新技術と伝承をうまく融合させ、健全な心身を以ってメロンに向き合えば、文字通り良い成果を得られると信じています。
以前、「メロンの他に何かないのか」というお問合せを頂きました。
私は「はい、メロンしかございません」と答えました。
夏はメロン一本勝負
私は八百屋でもなければ卸業者でもありません。メロン農家なのです。
豊富な物量を背景とした安売り競争でお客様を呼び込むスタイルは大手量販店にお任せします。
その代わり「庄内砂丘メロンが気になっているんですけど・・・」というお客様に対して、私は最大限の努力をもってお応えいたします。
専業である強みと覚悟で、メロンだけは大手の上を行く事こそ、私達の使命だと考えます。
多品目栽培は農業経営が安定する半面、どうしても無駄な仕事や資材が増え煩雑になりやすいという欠点があります。
当農園では春夏の労働力のほとんどをメロンに注入することで、より高度な気配りができる労働環境下で栽培を行っています。
生産者にとっては何千分の一個でも、お客様にとっては唯一なわけですから、畑の端の最後の一つまで神経を行き渡らせるべく、努力を惜しみません。
全員参加で効率UP
われわれ生産者は、その土に住まう小動物や虫類、菌類や細菌類といった“先住者”から、言わば間借りして作物を育てていると言えます。
しかし彼らとて十分な栄養がなくては生活できませんし、時には仲間を補充してやらないと、疲弊した土に活気を取り戻してはくれません。
“先住者”に敬意を
当農園では数年掛けて完熟させた堆肥を毎年数回投入する事で、まず土壌を育てます。
良い土壌であれば意図しなくても善い菌が繁殖して病害を抑制し、農薬使用の削減に貢献してくれます。
物理特性も改善され、肥持ちや水持ちが良くなってメロンの品質も向上します。
往々にして堆肥の取り扱いは重労働ですが、より自然に近い栽培方法を実践するには不可欠です。
2016年2月 追記
今期の生産分より、薬剤による土壌滅菌消毒に頼り切っていた状況を改め、菌体資材や高有機肥料の積極的利用による地力増強を中心とする土作りに順次切り替えます。
“壊して直す”より“補って養う”方が環境負荷を減らせ、土地の個性も活かせます。知り尽くした自家畑だからこそ出来る繊細な農法です。
2020年2月 追記
堆肥施用だけでは不足しがちな鉱物性土壌成分「ゼオライト」の毎年施用を開始しました。
これは「地力増進法で定められた12種類の土壌改良資材」の一つで、保肥力を高める効果があります。
国内におけるゼオライト優良産地が山形県内にあると知り、導入を決めました。
メロンと言われてすぐに思い浮かぶ名前はなんでしょうか。
夕張メロン、富良野メロン、アンデス、アールス、このあたりは品種としてメジャーなものです。
しかしだからといって、日本全国どこでも美味しく育つというわけではありません。
庄内地方にも「土地柄にマッチした品種」があります。青肉の「アンデス」「キスミー」、赤肉の「クインシー」などがそうです。
全国的メジャー品種ではなく庄内砂丘らしい品種を選択する事も、メロンの生命力を最大限に引き出すコツと言えるでしょう。
鉢上げ適期の苗達
メロンは苗作八割(育苗段階でメロンの出来の八割が決まる)と言われ、温床ハウスでの苗の世話は非常に神経を使います。
重要な行程であるため、温度や水だけでなく土や空気にまで気を配らないと、定植前に全滅などという事にもなりかねません。。
殺菌済みの育苗土で憂いなし
当農園は曽祖父の代より、自家製の鉢砂を使用しメロン苗を栽培してきました。しかしこの砂で栽培した苗は、定植直後の寒冷耐性にやや不安が有る事が分かってきました。
そこで播種トレーの土、育苗ポットの土、共に殺菌済みかつ施肥調整済みのものを導入する事を決断しました。
近年の農業資材の進歩は凄まじく、素晴らしい根張りの頑強な苗を育てる事ができています。
メロンの栽培の大敵である土壌病害、これを防ぐ最強の方法が「接木(つぎき)」です。
この接合部が強苗の証
農産物栽培において、我々人間は目に見えている茎や葉や花に注目してしまいがちです。
しかし植物にとっては、根こそが手足であり栄養摂取器官、生活の礎なのです。
幼苗期に穂木と台木にカミソリを入れ、噛み合わせてクリップで固定する、とても手間が掛かりますが、その効果は絶大です。
病気や寒冷に対抗する力は、自根栽培より圧倒的に優れています。
わずか数キロ圏内でも、栽培区画が違えばそれぞれの土地が個性を持ちます。
あそこは砂が粗く特に肥持ちが悪いとか、こちらは東端だけ水抜けが良いなど、長所短所問わず生産者を翻弄します。
当農園ではワインの産地統制のように自家圃場を独自に格付けし、管理手順や施肥設計を変えて管理しています。
百以上もの区画ごとにデータ収集を行い実際に微調整しながら作業を進める事は容易ではありませんが、仕上がりのブレを小さくする為には必須です。
メロンの花が咲けば、受粉させないと実を付けてはくれません。
大切な従業員たち
ホルモン剤を投与して強制的に結実させる事は技術的には可能ですが、当農園では品種本来の果肉質を顕現させやすい、ミツバチを利用した交配方法を採用しています。
花の蜜を求めてやってきたミツバチは雄花と雌花を境なく行き来しますので、体に付着した花粉は花から花へと自然に運ばれるのです。
元来、植物はこうして繁栄してきたのですから、この方法がもっとも正解に近いと確信しています。
メロンは手入れを工夫すれば、そこそこの品質のものを何個も収穫することが出来ます。
しかし、当農園では二番生り(本来の着果位置より先に追加で付く果実)以降を収穫しない前提で栽培設計を行います。
これにより株当たりの収益は減りますが、一つ一つが食味、外観ともに優れた立派な果実になります。
目先の利益のために品質を妥協する事は避けなければいけません。
量より質がモットー
2016年2月 追記
今期の生産分より、少果栽培方式を一部採用します。
種苗会社の推奨する採算性の高い生産方式は1ツル2果(1株4果)ですが、これを1株2~3果採りとする事で果実1つ1つの品質向上を目指します。
実施に必須な技術や有効性についてはここ数年の試験的栽培により実証済みで、次期より正式導入の運びとなりました。
試作品のご購入を快く引き受けてくださった常連の方々、ならびに少果取りについてご指南くださった師匠の皆様、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
2017年2月 追記
当農園は全品種全量、少果栽培方式に移行しました。
お客様からも「小林さんのメロンは味が違うね!」と高評価を頂いております。
この先も当農園は品質最優先で邁進いたします。
植物体はたんぱく質で出来ています。たんぱく質はアミノ酸で出来ています。
メロン株は果実肥大期に入るとどうしても“生り疲れ”という症状を呈します。巨大な果実を養うのですから当然といえば当然です。
私はメロン果実に栄養を集中して欲しいと願いますが、メロン株は生命維持のために光合成で得た養分を消費したいわけです。
ファイト一発・アミノ酸!
当農園ではその両者の望みを叶えるべく、あるタイミングでアミノ酸を与えます。これにより養分の消費を軽減させ、後半に余力を持たせるのが狙いです。
コスト面では少々不利ですが効果は十分で、メロン栽培の難関である収穫期のバテ・萎れによる糖度不足を克服する事に成功しています。
2019年5月 追記
今期の生産分より、追肥成分の見直しを実施します。
資材の進歩により今まで難しかったカルシウムの葉面散布供給が可能になり、糖度上昇や外観向上に有利になります。
生り疲れも乗り越え、いよいよ収穫数日前ともなると、最後の「いじめ」を敢行します。
水を極力与えないのです。
当然萎れ気味になります、この時こそメロン株が果実にすべてを託している場面、クライマックスシーンなのです。
世代交代が近いと悟ったメロン株では、メロン果実から近い葉からどんどん色が抜けていきます。
果実にあらゆる養分を吸い取られて無残な姿に変わっていきますが、後には素晴らしい果実が残ります。
水切りで株は様変わり
「よく頑張った」と心の中でねぎらい、収穫に辿り着けた事を喜ばずにはいられない瞬間です。
ハサミを持ち、ツルが縦横無尽に走るメロン畑に入る・・・もちろん収穫のためですが、気は抜けません。
格付けを参考に、枯れ戻りを注意深く見ながら、今朝に収穫するメロンを見極めていきます。
見事な枯れ上がりにて完成
一面を一気に収穫すれば作業は楽ですが、生き物なので個体差は無視できず、同じ株内でも果実の熟れ具合は違うので、選んで収穫しなければ品質にバラツキが出ます。
待てば良くなるならば、じっと待つ。簡単な事です。