結局の評価は「美味かったかどうか」の一点のみ
日本は農業先進国です。
組織的な指導、農家それぞれに受け継がれている技術と圃場、高度に発達した機械と資材、これらが強固に結びついて、現代の農業は維持されています。
浜中地区の農業も例外なく、この先進農業により支えられています。
しかし、農業の工業化が進むことで、共通規格や歩留まりに気を使い過ぎるあまり、肝心の味がおろそかになっては台無しです。
私たちには食べ物を生産する者として忘れてはいけない「食味」について考えていることがあります。
メロン出荷規格における「味」
庄内のメロン農家に限らず、大抵の果物農家は糖度計を持っています。
当農園では収穫担当者は必ず糖度計を携帯し、随時メロンを割っては値を読み、収穫すべきか否かの判断指標としています。
携帯型の糖度計には様々な方式がありますが、当農園が採用しているものは水分の屈折率を観察するタイプです。
レンズ部に果肉を押し当てて果汁を付着させ、万華鏡のようにのぞき込むと糖度が表示されます。
最近は荷重をセンサに垂らして計測するデジタル表示するタイプもありますね。
非破壊式は溶液成分が特定の波長の光を吸収する性質を利用して果汁濃度を数値化していますが、大抵の場合大型で据え置き型です。
ところで、糖度計の表示は糖分含有量ではありません。
分かるのは、これがもし砂糖水だったら糖分は○%含有だ、という情報です。
糖度計というよりは濃度計ですね。
そして経験から、濃い果汁のメロンは美味いとされています。
結局、頼りになるのは食べ慣れた人間の味覚
美味いか不味いか、これを判断する最も簡単な方法は「実際に食べてみる事」に他ならないでしょう。
当農園では、毎朝必ず試食します。現場で割り、実際に口に含んで食味を確認します。
1個2個ではありません。しかも毎朝です。同地区の仲間からも「割り過ぎ」「もったいない」と言われます。
メロンで満腹になってからの朝食は…まぁ微妙なところですね(汗)
さて、試食で割ってしまっては売り物になりません。最終的には観察眼と記録から、一粒一粒見ていくしかありません。
いわゆる職人の勘というものですが、“糖度はそこそこだがウマいメロン”や、“糖度は高いがイマイチなメロン”を見抜きます。
私の場合、メロン株の勢い、果実の様子、試食、これに栽培記録を加味して”今日収穫する果実”を決定します。
これを「私と株と実の三者面談」と呼んでいます。
毎朝ぶつぶつと、メロンに話しかけている姿は余りお見せしたくありませんが…(汗
「雰囲気糖度」という考え方
当農園は、雰囲気糖度という概念を収穫の目安の一つとしています。
畑を数百もの区画に分け、収穫日が近づくとこの区画ごとに糖度をサンプル計測し、値に応じて収穫日を決定していきます。
大胆に言い切ってしまうならば、隣の株のメロンの糖度です。
栽培環境まで考慮されたこの類の指標は(農家の腕が確かならば)機械式よりも信頼できると思いませんか?
植える前から味のランクは決まっているという事実
これは書くと、ある方面から叱られるかもしれませんが・・・。
「美味い品種は売れる!不味い品種は売れ残る!客にはバレてるんだぜ?!」
あるベテラン農家が声高に言い放った一言です。
あくまで私見ですが、育てやすさと食味の良さは反比例の傾向にあります。
生産者の間では常識ですが、例えばアンデスメロンには何種類もあります。
アンデス○号というコードネームで識別され、生産者はそれぞれの都合(味重視/肥大性重視/外観重視/収穫日重視/棚持ち重視/耐病害虫性重視/耐寒性耐暑性重視等)に応じて品種を選択します。
そしてそれらは全部まとめて「アンデスメロン」として流通・販売しても良い事になっています。
余談ですが「販売都合による名前変更」という事例もちょくちょく見かけます。
商社などの物量要求に応える為、複数の似た品種に同じ商品名を付け流通させるという商策です。
大量に売り捌く事で利益を出すスタイルの業者や組織での採用例が多いです。
当農園での品種選定は徹底して「食味優先」です。
そして、品種名をきちんと明示します。
畑持ちがよく暑さ寒さや病害虫に強いとしても、マズくては作る意味がありませんからね。